講演等の実施
今、海で何が起きているのか、海岸のごみの現状はどのようなものか?
日本で唯一の海岸美化専門の団体である美化財団の職員は、日々、海岸ごみの現場にいます。そうした現場から、生の海岸ごみの実態を豊富なビジュアルを交えてわかりやすく解説します。例えば、逗子なら逗子の海岸事情から始まり、世界的な海ごみ問題へと話を広げていくことが可能です。
抽象的な話になりがちな環境問題を、「ごみ」という誰もが接点のある身近な問題から一緒に考えていきます。それが出来るのも、現場に根差した活動をしているからこそ。
「~そうです」「~と言われています」というニュースで聞いたことがあるような伝聞形式ではなく、「今朝の海岸ではこうです」「これが海岸のごみです」ときちんと現場に根差したデータとビジュアルを提示します。それがしっかりと出来るのは日本で唯一の海岸美化専門団体である美化財団だけになります。
場所や人数、時間等、様々なケースに対応できますので、お気軽にご相談ください。
講演例(60分の講演を一部抜粋して掲載)
スクリーンをご覧ください。
海岸の写真が写っています。ここが私たちの仕事場になります。
私たちは、こうした海岸を回ってごみを拾ったり、ごみを回収したりというごみまみれの日々を送っています。
ですので、今日の私の話というのは、海岸ごみの最前線からの現場レポートだと思って聞いてください。
最初に、かながわ海岸美化財団について簡単に紹介します。
かながわ海岸美化財団は、通称「美化財団」と呼ばれており、設立は今から27年前。1991年に神奈川県と相模湾沿岸の13の市と町によって設立された公益法人になります。
海岸美化財団という名のとおり、メインの仕事は海岸清掃です。
清掃範囲は、東京湾から三浦半島を回って相模湾を通って、静岡県の県境まで約150キロに及び、その間の自然海岸を年間通して清掃しています。
こうして海岸美化を専門に行う団体は、日本で唯一、私たち美化財団だけなんです。
美化財団は、日本で一番海岸ごみについての経験があって、一番海岸ごみを知っている専門集団なんです。
では、実際の海岸を見ていきましょう。
これは2年前に小田原で撮った写真です。何の変哲もない海岸に見えますが、真ん中に線のような跡が付いているのが分かりますか?
これ、実はウミガメの産卵の跡なんです。
ウミガメというと、南の島とか水族館で見られるものと思っている方が多いと思いますが、実は神奈川の海岸でもウミガメの産卵があるんです。
でも、この同じ場所を同じ時刻にもっと引いて撮った写真がこちら。ごみだらけなんですよね。
神奈川の海にはウミガメが産卵に来る一方で、そこの海岸にはこんなにも大量のごみが存在する残念な現実があります。
では、そんな海岸ごみが神奈川の海岸にどのくらいあるかというと・・・・年間約2000トン。
海岸ごみというのは、その年の天候で上下しますが、この20年間毎年2,000トン前後できています。
今、海のごみ問題はとても注目されていますよね。しかし、年間のごみ量の推移で分かる通り、海のごみが最近になって急に現れたわけではありません。
昔から存在していたんです。社会的に注目されたのが、つい最近なんですね。
つまり、「海のごみ問題は古くて新しい問題」なんです。
では、こちらの神奈川県の地図をご覧ください。地図に赤い丸が4つ付いています。
この4つのポイントには共通点が一つあります。何だか分かりますか?
実は、この4つのポイントには「大きな川が流れている」んですね。
西から見ていきましょう。
酒匂川、ここがウミガメのポイントです。金目川。相模川、最後に境川。
この4地点が神奈川の4大海岸ごみが多い場所です。つまり海岸のごみは、川と深い関係があるんでます。
しかし、海岸のごみというと、海に遊びに来た人が残していったものというイメージがありませんか?
でも、それらは全体の3割にすぎません。残りはどこから?
残りの7割は川からやってきます。
では、こちらの神奈川県の二つの図を見てください。
左の図は、神奈川県の人口分布図です。黄色、ピンク、赤で示された場所が、人がたくさん住んでいる所です。神奈川県は人が多いんです。917万人もいます。
ごみにとって人は何かというと、「ごみの発生源」です。
次に右の神奈川県の河川図を見てください。神奈川県には、川もたくさんある。114本もあります。では川は何かというと「ごみの運び役」になります。
今この2つの図を見比べて見てください。何か気付くことありませんか?
人がたくさん住んでいる所と、川の流れが重なりますよね。つまり「ごみの発生源」と「ごみの運び役」はセットになっているんです。
人が出したごみを川が運ぶ。どこに運んでいるかというと、出口の海岸まで運んでいきます。
そのため、海岸には年間2,000トンものごみが存在するんですね。
では、具体的に一つ、川を見ていきましょう。
こちらは、桂川・相模川の流域図になります。この流域から出たごみはどこに行くかというと、その多くが茅ヶ崎、平塚、大磯の10キロの海岸に漂着します。その量は年間700トン。
では、この700トンのごみを減らしたいと考えたときに、10キロの海岸で考えても解決しないですよね?
なぜなら、それらはこの広い流域から来ているからです。海のごみ問題は、海岸という線じゃなくて流域という面で捉えないといけません。
その相模川を上流から見ていきます。
こちらは上流にある城山ダムにたまっていた大量のごみです。大きな流木、そこにいろんな人工ごみ、特に発泡スチロールやペットボトルなどのプラスチックごみが混じっていますよね。
このごみのラインナップ、覚えておいてください。
では、場面を下流に移します。
一番の下流、河口です。これは台風直後の相模川の河口の写真になります。ここは広い砂浜でしたが、台風の後は一面ごみで埋まりました。
この河口のごみを見てください。木くずにプラスチックなどの人工ごみが混じるというこのラインナップ、先ほどの上流のごみと一緒ですよね。
つまり、遠く離れていても、流域と海岸は水の流れでつながっているんです。
ですので、海から離れた内陸でもしっかりと対策を取り組まない限り、海のごみが減ることはありません。
海が汚いということは、イコール、私たちが暮らしている社会全体が汚いということです。
2019年は台風の被害がとても多い年でした。台風15号、そして19号が甚大な被害をもたらしました。
一言で言えば15号は風台風、19号は雨台風です。
海岸に影響があったというのは圧倒的に雨台風の19号でした。広い海岸がごみで埋まりました。
この19号の時、日本で一番雨が降った場所覚えていますか?
箱根です。
箱根に桁違いの雨が降りました。箱根には、早川という小さな川が流れていて、これは台風19号のときの早川の河口の写真ですが、こうした巨大な流木がゴロゴロとしていました。
神奈川全体の海岸で見てみると、台風19号によって700トンのごみがもたらされました。
700トンの数字というのは、清掃の現場で2つ意味があります。
1つは「年間の3分の1」ということです。神奈川の年間の海岸ごみ量は約2,000トン。その3分の1の量が一晩で来てしまいました。
2つ目は「これまでの倍」ということです。美化財団には27年の歴史があり、台風は毎年やって来ますが、これまでの台風ごみの最大は350トンでした。今回700トン。これまでの倍です。強烈なインパクトがありました。
台風19号のような大型の台風は、地球温暖化の影響で、今後増えてくると予測されています。実際の現場においても「これまでの経験や経験に基づいた備えが、通用しなくなって来ていること」を肌で感じます。
では、海のごみの中身について、27年前の昔と今との違いを見ていきます。
昔に比べて減ったのがガラスと金属のごみ。逆に増えたのがプラスチックごみです。プラスチックは、昔の1.4倍まで増えました。つまり、海のごみのメインは、プラスチックに変わってきているんです。
これは、2018年の8月に鎌倉の由比ヶ浜に打ち上がったシロナガスクジラの赤ちゃんの写真です。シロナガスクジラが打ち上がること自体、国内で初めてというケースで、それだけで大きなニュースになりました。
赤ちゃんと言っても大きいです。10メートルぐらいある。しかも、打ち上がった場所が、夏の海水浴場ということで、現場はすごいギャラリーでした。
でも、このことで、もっと大きなニュースになったのが、その赤ちゃんクジラのお腹の中から、プラスチック片が出てきたことでした。
今、海のプラスチック汚染は、こうしたクジラのお腹の中にまで広がってきています。待ったなしの状態です。
それでは、ここまでの話をまとめます。ポイントは2つ。
一つ目は、「海岸ごみの多くが川から来ている」ということ。つまり、海のごみ問題というのは、陸のごみ問題なんです。
二つ目は、その「海岸ごみがプラスチックに変わってきている」ということです。
この2つのポイントを踏まえると、海岸のごみを減らすためには、「陸域のプラごみを減らしていくことが重要だ」ということです。
そのために、私たちができることは何でしょうか?
出口と入口、両方向からの取り組みが必要です。出口は海岸です。海岸はごみの防波堤です。ここで食い止める。ここで今あるごみ、今あるプラごみをしっかりと回収していくことが必要です。
そして、もう一つ、入口は何かと言えば、私たちの暮らしです。家庭、職場、学校など、色んな暮らしの場面の中で、これからのごみ、これからごみになりそうな物、そうしたものを減らしていく、そうした取り組みも必要です。
今日私は、最初に「海のごみ問題は、古くて新しい問題」だと申し上げました。それがまた風化して、古くならないよう今こそみんなで取り組む時です。